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★ 移入生物最新事情 ★
〜アライグマ 古都に爪跡 〜
 
 京都・清水寺の国宝の本堂で、さい銭箱の上の梁に目をやると、5本指の足跡が見える。重要文化財・朝倉堂の梁にも足跡がくっきり。柱には鋭い爪跡がついている。犯人は、アライグマ。「あそこの瓦をめくって天井裏に侵入した」。福岡正芳・同寺副次長は、朝倉堂の屋根の一角を指さした。
 京都府文化財保護課が昨年調査したところ、国宝や重要文化財のある社寺の1割以上にあたる25件、その他の歴史的建造物を含めると76件で被害があった。檜皮葺きの屋根に穴を開けられた例もある。
 有害鳥獣としてアライグマの捕獲・駆除を進める京都市は「この問題は府に聞いてほしい」と口をつぐむ。そこには神社仏閣への気兼ねが見え隠れする。「社寺は文化財を守らなくてはならないが、殺生は出来ない。
境内で駆除していることを知られたくないのが本音でしょう」。府の担当者はそう打ち明ける。
 北中米産のアライグマの成獣は、体調50センチほど。特定外来生物被害防止法に基づき、輸入や販売が厳しく規制されている。環境省外来生物対策室によると、これまでに、北海道から沖縄までの40都道府県で捕獲された。
 1977年に放映されたアニメ番組で人気を呼び、ペットとして輸入されたものが捨てられたり、逃げたりして野生化した。夜行性で繁殖力が強く、日本にはピューマなどの天敵もいない。昆虫、魚、鳥や農作物、生ゴミを食べ、ふたを回したり、物置のスライド扉を開けたりもする。
 東の古都・鎌倉。鶴岡八幡で先月、境内のせせらぎに放したホタルの幼虫が激減した。現場にはアライグマの足跡。「屋根裏を寝床にしてふん尿をするため、市内では天井が落ちたり、腐ったりする被害が後を絶たない」。鎌倉市の鈴木郁雄・みどり課課長代理は嘆く。
 捕獲には、米国製のかごワナが使われれる。家屋への侵入口を見つけるため、石灰などの白い粉をまいて足跡を確認し、経路状に仕掛ける。捕獲されたアライグマは、人が近付くとネコのような低いうなり声で威嚇する。原則として、殺処分される。
 鎌倉のアライグマ被害が報告され始めたのは、96年ごろから。富裕層が多く、そのペットが野生化したと見られる。これまでに計1000頭近くが捕獲された。被害は鎌倉から神奈川県全域に広がり、捕獲数は98年度の4頭から、2004年度は974頭に。三浦半島ではスイカや大根などの農作物被害が深刻だ。希少種のトウキョウサンショウウオやアカテガニも捕食されている。
 県は今年3月、推計4000頭のアライグマを今後5年間ですべて駆除する計画を策定した。市町村と民間団体、農業団体が連携してワナを仕掛ける。
 根絶計画には反対の声もある。「生態系の維持は自然に任せ、共存の道を探るべきだ」「希少生物を守るために他の命を殺すのは残念」。県にはこんな意見が寄せられている。
 一つの県だけの取り組みに効果があるのかという疑問もある。横浜国立大の小池文人助教授(生態学)は、神奈川のアライグマが増え続ければ、都県境を越えて、東京の多摩丘陵、山梨、長野県の生息密度も高くなると予測し、「それを阻止するには、広域的な対策が重要だ」と指摘する。
 日本には本来いない移入生物による生態系破壊を防ぐ特定外来生物被害防止法の施行から、6月で1年。各地で繰り広げられる移入生物対策を紹介する。
【読売新聞/2006年5月30日 「社会面」環境ルネサンスより】

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